シマウマ de 考察

海外駐在5年目突入のリーマンが書くブログ。最近はThe Economistの記事を中心に書いてます。

ネットフリックスのひとり勝ちは続くのか?

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The Economistの6月30日版ではネットフリックス特集記事もしていたので、今回はその話、前回書いた記事の詳細版という位置付け。

本記事の論点は、ネットフリックスは今後も勝ち続けるのか?ということであり、それに対する本誌の結論は、まだどうなるか分からない。なんとも煮え切らない締め方ではあるが、The Economistらしい。この記事では、彼らがこの結論に至った理由を、ポイントを絞って解説する。

www.economist.com

 

ネットフリックスの来歴

まずはネットフリックスの来歴を箇条書きでなぞる。

  • 1997年:カリフォルニアにて創立。当初の事業はDVDレンタルサービス事業。
  • 2006年:パーソナライズ・DVDレコメンド機能のアルゴリズムを開発。一番出来の良いアルゴリズムを開発したデベロッパーに$ 1 million(1億円)の賞金を報酬として用意。←Wikipediaの情報引用
  • 2010年:当時ビデオ配給企業の副社長だったテッド・サランドスがCCO(Chief Content Officer)に就任
  • 2011年:Video Streaming事業に着手。$ 100 million(100億円)をかけて「House of Cards」の放映権を購入
  • 2018年:5月の決算発表で時価総額が$ 170bn(17兆円)となりディズニーを抜き、メディア業界で最大の企業となる。

次に、ネットフリックスがどれだけ成功しているかについて少し触れる。

  • 2018年には年間82本の映画作品を公開する予定。ハリウッドでお馴染みのワーナー・ブラザースは年間23本
  • 現在700を超えるTVプログラムを21ヶ国にまたがって生産中
  • ネットフリックスの購買者は世界で現在1億2,500万世帯。米国内では5,700世帯。米国に限れば、この結果、既存のTVプロバイダーの契約が激減している。
  • 世界のDownstream bandwidthの約5分の1をネットフリックスが占拠。要するに、ものすごく多い人数がネットフリックスのコンテンツを視聴しているということ。この数には中国人が含まれていない(中国ではネットフリックスが規制されている)ので、なおのこと驚きである。


ネットフリックスの成功要因

これほどまでに成功しているネットフリックス。ではその成功の要因は何なんだろうか。大きく分けて3つあると考える。

  1. 莫大なコンテンツ投資
    2018年の1年間で$ 12bn(1兆2,000万円)をコンテンツ投資に行うという。さらには人材の確保にも余念がない。最近ではオバマ米大統領とその夫人ミシェル氏とも契約し、新たな番組を作成中。他にも米国では超著名なプロデューサーたち("Glee"のRyan Murphyや"Grey's Anatomy"のShonda Rhimesなど)と続々契約している。

  2. グローバルマーケティング
    米国のみならず世界的に展開し成功している。実際、ネットフリックスの購読者の半分以上は米国外にいる。成功の秘訣は、各国にてローカルな番組を制作していること。メキシコの「Marcos」、ドイツの「Dark」やブラジルの「3%」など数えれば数多にある。それらローカル作品が文字字幕とともに世界に発信し、さらに人気を加速させているという現象も起こっている。

  3. 超強力なアルゴリズム
    適切な対象に投資し、適切な視聴者に、ネットフリックスのプラットフォームを使ってダイレクトに広告する。これを可能にしているのは、ネットフリックスが超強力なアルゴリズムを開発し続けているからだ。データに基づいた確固たる自信があるから、他社が考えもしなかったような大胆な行動が踏める。ここでの強みはデータが集まれば集まるほど強力になるので、ネットフリックスの牙城はそうそう崩れないだろう。
    DVDレンタル屋時代から、アルゴリズムによるレコメンドシステムで成功した体験も、後押ししているのだろう。

 

ネットフリックスが抱える4つのリスク

これほどまでに好調ななネットフリックスでも将来は安泰ではない。と本誌は主張する。これぞ”盛者必衰”の理である。

  • 競合の存在
    AT&T(米国最大手の電話会社、インターネット接続等のサービスも行う)が$109bn(10兆円)でタイム・ワーナー社を2018年6月に買収。コンテンツ配信事業にも力を入れる形だ。
    さらにはケーブル・メディア最大手のコムキャスト社も、21st Century Foxの買収を画策しているという。その買収額は$80bn(8兆円)にのぼるという。
    もちろん、Amazon PrimeやHuluなど他のストリーミングサービスも虎視眈々とネットフリックスの牙城を崩そうとしている。

  • ファイナンシャルの問題
    ネットフリックスは$8.5bn(8,500億円)の負債を抱えている。もちろん、これは余剰利益を出さずにコンテンツに投資する、戦略的負債であり1億世帯を超える購買者を抱えるネットフリックスにとっては、大きな痛みではない。今の所は。しかし、ひとたび会員数が減ることが起これば、この少なくない負債が、企業の首を絞めかねない。

  • スキャンダル
    100億円かけて権利を勝ち取り、映像ストリーミング事業の創成期に成長するドライバーとなったHouse of Cardsであるが、主演のケビン・スペイシーが2017年に性的暴行の疑いをかけられるスキャンダルに見回れる。このときのネットフリックスの動きは機敏で、即座にケビン氏との関係を断ち、残っていた最終シリーズもこの主演を使用しないと決定した。このためネットフリックスが本件についてバッシングを受けることはなかったが、他の俳優がこのようなスキャンダルを起こさないとは限らないので、今後もリスク要因として大きく残る。

  • 既存TV事業との軋轢
    たとえネットフリックスの事業が上記リスクを乗り越えたとしても、今度は既存事業との覇権争いになる。この場合は、往々にしてネットフリックスのような新規事業は不利なる。なぜなら既存事業は政府との付き合いが深いから。仮にネットフリックスが各国のエンターテイメント事業を独占したとすると、各国で規制がかけられる見込みが高くなる。

 

長期的に見て一番大きなリスクは、既存事業との争いになる。実際、日本ではAirbnbUberなどは厳しい規制をかけられている。それが”タイタン”と呼ばれる超巨大企業の悩みの種となる。事実、FAANGFacebookAmazonAppleNetflixGoogleのどの企業もまだ解を見つけられていない。

というのが本記事の最後の締め。いかにもThe Economistらしい締め方である。

 

前回のネットフリックス記事はこちら↓

shimauma-house.hatenablog.com

 

読書のジレンマからの解放:本の内容を記憶する「マインドマップ読書法」

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本を読むのが好きだ。でもひとつ問題があって、それは読んだ本の内容を忘れてしまうことだ。かといって内容を覚えるためにメモしながら読むと、メモするのに時間がかかりすぎる。その結果、読むこと自体が億劫になってしまう。さらに問題なのは、メモした内容もたいして覚えられてないことだ。

そうなってくると、「たくさん本を読みたいけど、どうせ内容を記憶できないのなら、読んでも意味がない」という読書のジレンマに陥る。英語の本の場合は、読むこと自体に膨大な時間を要するので、そのジレンマが一層強くなる。

こんな読書のジレンマを解決する方法がある。それがマインドマップ読書法」だ。この方法を用いれば、記憶の長期的な保持が可能になる。しかもマインドマップは短時間での作成が可能なので、作業自体が億劫になることもない。

そんなわけで、今回はマインドマップ読書法について書いていく。参考にした本はマインドマップ創始者であるトニー・ブザン氏Mind Map Mastery。この本は2018年3月に発行されたもので、マインドマップの基本ルールから、AIなどの新たなテクノロジーマインドマップがどのように絡んでいくのといった、旬の話もされているので、既にマインドマップを知っている人にもおススメな本になっている。

Mind Map Mastery: The Complete Guide to Learning and Using the Most Powerful Thinking Tool in the Universe

Mind Map Mastery: The Complete Guide to Learning and Using the Most Powerful Thinking Tool in the Universe

 

 

なぜマインドマップが記憶の保持に良いのか?

そもそもなぜマインドマップが記憶の保持に良いのか、という点について簡単に触れる。

乱暴にまとめると「脳の働きをブーストするように工夫されているから」となる。工夫している箇所は以下の二点。

  • 左脳と右脳の両方を使うようにできている

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    左脳と右脳の役割は違う。左脳は文字や論理などを司る一方、右脳は図や色に反応する。マインドマップのルールのひとつは、できるだけ多くの図と色を入れること。つまり、マインドマップのルールに従うことで自動的に脳全体を活用することになるのだ。
  • 情報を記憶する仕組みと同じ仕組みで作られている
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    中心にメインとなるテーマを(図で)添え、そのテーマから連想するもの・ことを放射状に加えていくのが、もうひとつのマインドマップのルール。実は、これは脳が情報を記憶する仕組みと同じなのである。

    赤ちゃんの学習プロセスを例にとる。生後まもない赤ちゃんは20 - 25cmほど先しか見えない。これはちょうど母親の顔の位置になる。赤ちゃんはまず母親という存在を理解し、母親から派生するものを順に覚えていく。「ご飯」であったり、「パパ」だったり、「愛情」だったり。

    この覚える仕組みは大人になっても変わらない。「先週土曜日の晩御飯は何を食べた?」かと聞かれ、すぐに思い出せなかったとする。そんな時は、その日の夕方はどこにいたのか?誰といたか?など、晩御飯に関連されるものから思い出していくと、最後は思い出すことができるのである。

マインドマップを使うことは、左脳・右脳を活性化し、かつ脳が情報を記憶するプロセスを可視化することである。つまり、脳のポテンシャルをできるだけ引き出すことになる。だから記憶力が上がるのである。実際に、科学的にもマインドマップが記憶の保持に効果があると立証されている。

 

マインドマップの描き方

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なぜマインドマップが記憶の保持にいいのかを把握していれば、描くのは造作ない。準備するものは、真っ白な紙と、色のついたペンを3色以上用意するだけ。

必要なステップは以下の3つ。

  1. 紙の中心にメインテーマを象徴するイメージを描く
  2. 中心から放射状に枝を描く。枝の色はそれぞれ変える。
  3. 枝の先に中心から連想するイメージを描く。一言のフレーズでもよい。

以上。

後は、ステップ2, 3を繰り返して、他の枝の先も描けばいいだけ。枝の先から更なる階層となる枝を描いてもいいが、できるだけ複雑にならないように、多くとも3から4階層に抑えておきたい。

 

マインドマップ読書法

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マインドマップも良さを理解し、作り方を知ったところで、自分の生活に取り入れなければ意味がない。情報を保持する脳の場所と、このような手続き記憶を保持する場所は違うのだからマインドマップを描く」という行為を記憶するには、実際に描きつづけるしかないのだ。

というわけで、ここからは「Mind Map Mastery」の内容からは少し逸れ、私が取り入れているマインドマップ読書法を簡単に紹介する。

  1. 本を読む目的を明確にする。
  2. その目的を紙の中心に描く
  3. 本を高速でざっと読む
    目次、まえがき、(あれば結論)はじっくり、後は気になった個所以外は高速で読む。このとき、全部読んで理解するという感覚は排除する。
  4. 設定した目的を理解するのに必要なキーワードを3 ~ 7つ、枝として描く
  5. その枝からさらに必要となる細かな要素を描く

これを徹底して繰り返す。この方法の良い点は、読む目的が毎回明確になること。目的が明確であれば、読むべきところが自然と見えてくる。それができると、全ての文字をじっくり読んで理解しなければいけない、という感覚も排除できる。結果として読むスピードが上がる。

マインドマップに記載する内容もキーワードのみなので、作成するのにあめり時間もかからない。だから続けられる。続けることで、精度も上がる、精度が上がれば理解度も高くなる。

このようにマインドマップ読書はいいことづくめなので、ぜひともトライして頂き「本を読みたいけど、読まない」という読書のジレンマから自分を解放して欲しい。

Netflix(ネットフリックス)作品が面白い理由

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久しぶりのThe Economistからの記事。

少し前になるが、Web版7月4日号のThe EconomistにてNetflix(ネットフリックス)に関する記事が掲載されていた。”How Netflix became a billion-dollar titan”つまり、どのようにしてNetflix企業価値10億ドルの巨大企業になったのか、という話。

www.economist.com

もともとDVDレンタル屋だったNetflixは2011年からビデオ・ストリーミング事業に着手。手始めに「House of Card -野望への階段」の放映権を、およそ1億ドルで購入。今のようにストリーミング事業が隆盛ではなかった当初は、Netflix社のこの行為は周囲にとっては懐疑的であった。逆を言うと、この時点でこの規模の投資ができるNetflixには、かなりの先見の明があったことが分かる。

それ以降もコンテンツへの投資を続けて、爆発的に人気のあるコンテンツを製作、ストトリーミング市場の世界的な成長も合間って、Netflixは”Titan"と表現される程の巨大企業となった。

2018年は年間12 - 13億ドルの投資を行う予定で、82本の映画を公開する予定だとか。この公開本数はとてつもなく多く、たとえばハリウッドでお馴染みのワーナーブラザーズの映画公開本数は23本である。ディズニーは10本。

要するに、Netflixの作品が面白い理由は、

  1. いち早くストリーミング事業に着手し
  2. この事業のキーとなるコンテンツに投資し続けたから。

と言えるのではないだろうか。

海外生活を楽しむコツ

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ニューヨークに来て3年。思えばいろんなことがあったけど、全体的には楽しめた。1年前にも同じように振り返りを行い、出た結論が「どこに行っても、結局はやりたいことをやって楽しむことが大事」だった。今でもこの考えは変わらないし、今後どこに住んでもそうなんだろう。

shimauma-house.hatenablog.com

 

なので、今回は少し趣旨を変え、なぜ自分が海外での生活を楽しめたのか?ということに焦点を当てて考えてみようと思う。

今後、ニューヨークやニューヨーク以外の国で生活を控える人々の参考になればいいと思うし、日本に暮らしながら今から述べることを今後の生活に取り入れてくれてもらえれば幸いである。

具体的には3つある。

 

英語を勉強する

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英語のスキルを伸ばすこと、そのために時間をかけて勉強すること、まずはこれに尽きる。海外で生活していればある程度の英語力はもちろん身につく。スターバックスで焦らず注文できるようになるし、レストランの予約も電話で取ることだってできる。仕事で使うのであれば、会議に出席したり、仕事の依頼をしたりできる。

しかしながら、特にプライベートでのネイティブ同士の会話になると急に聞き取れなくなるし、英語の記事だってスラスラ読めない。なぜならば、それらをこなすには、いわゆるサバイバル英語よりも別の次元の基礎力が求められるからだ。

たとえば前者に関しての問題は、ネイティブの話すクセ(消える音や省略する音)の存在を知らないために聞き取りができない。後者の問題はボキャブラリーの数が問題となる。ネイティブの語彙数はおよそ25,000語から40,000語と言われている一方で、大学を卒業した日本人は平均は8,000語前後しかない。

こういったスキルや語彙は、日常的な生活をしているだけでは身につかない。だから日々学んでいくしかない。ここで踏ん張って学ぶことによってようやく、ネイティブに囲まれても話の内容が理解できるようになるし、英語での情報収集が苦でなくなる。つまり英語から受けるストレスが解放され、むしろ日々の生活の幅が広げるツールに変わるのだ。

ちなみに、ネイティブのクセを理解することに特化した教材はこちらに紹介しておく。サイトは少し胡散臭いが、きちんと読んでいくと懇切丁寧に作り込んでいることがわかる。

www.mogomogobuster.com

 

時間の使い方を考える

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次に必要となるのは、時間の使い方を身につけることだ。社会人になってから海外で生活するとなると、すぐに会える親しい人の数が圧倒的に減る。結婚しているならば別であるが、そうでないならば大半の時間を独りで過ごすことになる。良くも悪くも、自分の可処分時間がものすごく増えるのだ。

実際、自分も飲み会に参加する数が圧倒的に減った。日本にいた頃に飲み会の数を半分に減らしていればどれだけの時間を自分の時間に使えただろう、とさえ思うことがたまにある。

何はともあれ、自分の時間が増えるので、ここで得られる時間をを無駄な時間に費やしてしまうか、それとも「やりたいこと」に費やすかで、生活自体の充実感が変わる。仮に「やりたいこと」がない場合は、自分を見つめ直す時間にできるし、「やりたいこと」があるならば、それに向けて集中的に取り組むことができるのだ。

下の動画は、DaiGo氏が時間術の説明をしているもの。面白い視点からの時間術を教えてくれている↓

週40時間の自由を作り出すための超時間術 ~時間認知のゆがみを矯正して失われた時間を取り戻すには - YouTube

 

柔軟であり芯を持つ

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少し曖昧な表現になってしまうが、最後に伝えたいのは心構えの話。何事も柔軟に受け入れる心を持つ一方で、芯を持つのである。この絶妙なバランスが大事になる。

国が違えば文化も違い、文化が違えば生活習慣も違う、人の考え方も違う。特に日本は島国で世界から見ると特殊なので「日本とは何もかもが違う」というスタンスでいた方がよい。でなければストレスにしかならない。

たとえば、海外の電車では時刻表通りに動くという概念があまりない。5分から10分遅れるのはざらにあるし、直前で電車の運行のキャンセルを知らせられることだってある。(ちなみに、この環境のおかげで山手線が2分ばかり遅れたても全くイライラしない。むしろ感激する。)

この電車の運行状況が示すように、もちろん全員ではないが、待ち合わせに遅刻するのも仕方ない、という感じが海外ではわりとスタンダードだったりする。すると自分も遅れてもいいかもなんて思ったりもする。

ここでさっきの「柔軟でありつつ芯を持つ」考えを意識すると、相手が遅れてくるのは認めつつ、自分は時間通りに集合場所に行く、という解になる。ここで言いたいのは、遅刻するな、ということではなく、自分が当然すべきと思ってやって来たこと(人に迷惑をかけないのが前提)はやり続ける。一方で、その考えや行動を人に押し付けるべきではない、ということだ。

最近話題になった、サッカー日本代表のロッカールームでも行為も、ある種の「柔軟であり芯を持つ」心構えの現れなのではなかろうか。この心構えがあると、相手の行動も受け入れているのでストレスも溜まらない。

web.gekisaka.jp

 

結局のところ

・英語の基礎力を身につけ、

・たっぷりできる時間を有効活用し、

・柔軟かつ芯を持つ心構えを貫くことで、

海外生活を楽しむことができるのではないだろうか。道半ばではあるが、少なくとも自分が楽しめた理由はここにある。

記憶力のプロに学ぶ、名前の覚えるための戦略

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海外に住んでいると記憶力の重要性を感じる。英語力を向上させるには英単語の暗記はもちろん、会話フレーズや動詞の活用方法も覚えていかなければならないからだ。

それに加えて、最近特に悩んでいるのは外国人の名前を覚えることである。外国人の名前なんてまるで耳馴染みがないので、一度聞いただけではとてもじゃないが覚えられない。さらには、たまに顔も同じような感じに見えるときでさえある。

そんなわけで、最近は記憶力をどう向上させられるのか?ということに関心がある。そして見つけたのがコチラの本だ。 

 今回紹介する本は、記憶マイスター、言わば”記憶力のプロ”によって書かれている。記憶をする上で脳がどのように働くのかの仕組みに簡単に触れながら、記憶力を高める実践的な方法を紹介してくれている。

彼が提唱する、記憶力を高める3つの原則と、具体的な手法のひとつである名前の覚えるためのコツ・戦略を今回は紹介する。

 

記憶力を高めるには?

記憶力には2種類ある。短期記憶と長期記憶だ。短期記憶には量に限界があるし、寝ると忘れるものがほとんど。一方、長期記憶には量に限界がない上、長期的なスパンで記憶を保持できる。

つまり、記憶力を上げるには、覚えたい情報を、短期記憶から長期記憶に効率的に変換させればいいのである。そのための戦略が必要となる。筆者は本書でしきりに次のように述べている。

頭の良し悪しに関係しているのではなく、良い戦略を使っているかどうかによるのだ。

 短期記憶を長期記憶に結びつける戦略

この戦略を実践する上で大事な原則がある、著者はSEEプリンシプル(原則)と名付けている。

  • S - Sense 5感を使って記憶する

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    この感覚が多ければ多いほど記憶に定着しやすい。”horse”という単語を覚えたい際に、字面を見て覚えるよりも、実際に馬に乗った方が確実に記憶に残る。これは、より多くの5感(ここでは視覚、嗅覚、聴覚、触覚)を使っているからに他ならない。
  • E - Exaggeration 誇張して記憶する

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    普通サイズのリンゴよりも、巨大なリンゴの方を見たときのほうが確実に記憶に定着する。何か覚えたいものがあればそれを頭の中で誇張したものを想像してみるとよい。
  • E - Energize イメージしたものに動きをつけて記憶する

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    文字より絵、絵より動画のほうが記憶に残る。昨今は動画広告が増えているが、その理由は動画の方が人々の記憶に残るからだ。

これらを見て分かるのが、2つのEは頭の中でそのイメージを創造しないといけないということであうる。

「記憶の作業は創造性を求められる。創造性を高めると自動的に記憶力も高くなり、記憶力を高めると自動的に創造性も高くなる」

このように考えると、暗記とは決して退屈な作業ではなく、クリエイティブな作業である、という考えになる。この考え方になると暗記作業も案外楽しくなるし、この楽しさがまた創造性を生み出す良いサイクルを生み出す。

 

名前の覚え方

上記原則の他に、本書では記憶力を高める具体的な戦略を6つほど教えてくれている。
ここではその中から「名前の覚え方」を紹介する。この戦略を使いこなすことができれば、どんな名前でも一瞬で記憶することができるようになる。

キーとなる作業は、次の4つである。

「集中」「創造」「連想」「繰り返し」

  1. 集中

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    紹介される人の名前と顔を覚えるために全神経を研ぎ澄ますこと。人の脳はひとつのことしか集中することができない構造になっている。だから、このときにその日の晩御飯のことを考えていてはいけないし、仕事のことを考えてはいけない。
    名前を聞き取れなかった場合は、もう一度確認しよう。全く失礼ではない。聞きなれない名前であれば漢字を、英語の名前ならスペルを教えてもらうのも良いだろう。曖昧にしか聞き取れなかったものは確実に記憶できない。そんなわけでまずは全身全霊で正確に名前を聞き取ろう。

  2. 創造

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    音よりイメージを覚えやすいように脳はできている。だから音をイメージに変換すると記憶力向上につながる。実際に、プレゼン時に図を入れるだけで、その説明を覚えている確率が65%も上がるといういう研究結果もあるそうだ。

    ではどのように名前からイメージを創造するのか?その名前と同じ人がいるのならば、その人の顔を思い浮かべよう。友達でもいいし、芸能人でもいい。

    はじめて聞く名前の場合は、音から無理やりイメージを創る。たとえば「ホースリー」と名乗る男性に会った場合は、「ホース」にまたがり爆走するブルース・「リー」を思い描いてみる。このように、現実では滅多に見ない光景を創造すると記憶力のアップにつながる。

    日本人の場合だと、漢字がも良いツールとなる。漢字自体が実際の形を現しているものが多いからだ。たとえば「山里さん」という人がいたとすると、自分が訪れたことがある「山」と「里」を思い浮かべればいいのである。

  3. 連想

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    ここで短期記憶から長期記憶につなげる行程となる。すでに知っている人の名前の場合は、その人の顔と、新しく覚えたい人の顔の部位を比較する。この本では「ジョージ」を例にあげている。

    まず既存のジョージとして「ジョージ・クルーニー」を連想する。そして目の前のジョージと、髪の色や、鼻のかたち、目の色などできるだけ多くの箇所を比較するのだ。そうすることで、新しいジョージの顔と、既存のジョージをセットにできるので、結果として長期記憶につながるという。

    音から無理やりヴィジュアルを作った場合はどうだろう?
    「ホースリー」を例にとると、まず目の前のホースリーの顔の特徴的な部分を見つける。そしてそれをコミカルになるくらい大げさになるようにイメージしよう。たとえば鼻に特徴があるとしたら、鼻が大きくなったバージョンのホースリーをイメージするのだ。次に、先ほど音から作り上げた「馬に跨って爆走するブルース・リー」を、特徴的な鼻から登場させる。このコミカルなイメージが長期記憶につながるのである。

    ここでひとつ著者が注意しているのは、このイメージの創造を他言しないほうがいいということである。中には気分を害する人がいるからだ。

  4.  繰り返し

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    3で創ったイメージを思い出す作業を繰り返す。思い出す行為が多ければ多いほど長期記憶につながる。たとえばその人と話している傍ら、創り出したイメージを何度か想像するのもいい。会話の中で名前の由来などを話すことも、覚えるためのひとつの良い方法である。iPhoneのメモ帳にその日あった人の名前と、創り上げたイメージを書いてみるのもいい。

集中して名前を聞き取り、その名前からイメージを創り出す。創り出したイメージと顔を連想し、その連想したものを繰り返し思い出してみる。この一連の作業を行うことで、名前を忘れる確率が劇的に下がるだろう。

このような記憶力を高める具体的な戦略が、他にもいくつも紹介されている。数字の効率的な覚え方や、文章をまるまる覚える方法などだ。もちろん語学の勉強にも活かせる。記憶力を高める戦略を用いて、人生を豊かにしよう。

 

筆者について

記憶力のプロと言っても想像つかない人が多いと思うので、最後にこの筆者の凄さを感じてもらえる動画を載せておいた。ランダムに書かれた18の数字で一瞬で記憶するところをぜひ確認してもらいたい。


Instantly recalling understanding: Kevin Horsley at TEDxPretoria

ファクトフルネス:Hans Roslingが伝えたかったこと

 

ファクトベースで世界と向き合おう。

スウェーデンの医師であり公衆衛生学者でもあるハンズ・ロズリング博士が最後に残してくれたのが、この考えである。(ハンズ氏は2017年2月に他界。本書はハンズ氏とハンズ氏の息子オラ氏とその妻アナ氏による共著)

世の中の人々は、世界に対して間違った理解をしており、総じて世界は悪くなっていると考えてしまっている、とハンズ氏は言う。実際には良くなっているにも関わらずである。この本では、なぜ人々は世界が悪くなっていると考えてしまうのか?実際には世界がどんな風に良くなっているのか?ということを伝えてくれている。

ビル・ゲイツ氏が2018年の夏に勧める5冊の本のうちの1冊に選んだことで有名。その勧め度合が半端なく、2018年にアメリカの大学を卒業する生徒全員に電子ブックを無料配信するほどだ。

もちろんゲイツ氏自身も、この本から学んだことはたくさんあると言っており、特に衝撃だったのが、”先進国”と”途上国”に変わる新しいフレームワークをハンズ氏が提唱していることだそうだ。彼のブログであるgates noteにそう綴っている。

”先進国”と”途上国”をアップデート

確かに50年前ならば先進国と途上国という概念は正しかったのかもしれない。しかしこの考えはすっかり古いものになってしまったので、考えのアップデートが必要である、とハンズ氏は言う。実際、中国とコンゴ共和国を一括りにして”途上国”と呼んでしまうのは雑すぎる、ということは誰もが感じるだろう。

ではどのように見ていけばいいのか?ハンズ氏は4つの収入レベルに応じてグループを区別するべき、と述べている。

Level 1: $ 2以下で1日を生活する人々。世界銀行が定義づける貧困層だ。このレベルは世界に約10億人いる。裸足で生活し、調理は焚き火で行う。1日の大半は水を確保するために歩いており、夜は床で寝る。

Level 2: 世界に30億人いると言われているのがこのレベル。$2 - $8 で生活をしている。靴を履いており、中には自転車に乗っている人もいる。このおかげで1日かけて水を汲みに行かなくて済む。料理にはガスストーブを用い、マットレスで寝る。このレベルからほとんどの子供が小学校に行けるようになる。

Level 3: 20億人が$8 - $32で生活している。このレベルになると、家には水道も冷蔵庫もある。中にはオートバイを保有している家庭もあり、このおかげで遠方にある賃金の高い職にも就くことができる。多くの子供は高校まで行ける。

Level 4: 10億人いるのがこのレベル。$ 32 以上で1日を過ごす。日本人のほとんどがこのレベルに入る。いわゆる”先進国”の普通の暮らしだ。多くの子供は高校まで卒業するし、頑張れば車も買えるし、旅行に出かけることもできる。

なぜ事実を知ることが大事なのか?

このフレームワークを用いれば、より事実に近い見方ができる。ではなぜ事実を知っておく必要があるのだろうか?このことから我々は何を得られるのか?

国連機関や、ユニセフ等で働く人々には直接恩恵をもたらすだろう。問題解決をするために最初にやらなければならないことは現状認識である。現状が理解できて初めて、問題がどこにあるのか、何が原因なのかを突き止めることができる。その結果、解決に向けてリソースをつぎ込むことができる。

企業にとってのメリットも考えやすい。このフレームワークIMF国際通貨基金)が見通す今後のGDP成長率とを一緒に考えてみると、たとえば20年後にはどんな国がLevel 4を占めるようになるのかが分かる。実はその大多数、およそ73%が今"発展途上国"と言われている国々。これを把握しておくと、どんなマーケティングをしていくかも考えやすくなるだろう。

個人においてもいくつか思い浮かべることができる。たとえば投資先の国を考える上での正しい情報源になるだろうし、レジャーで旅行に行く選択肢も増えるかもしれない。何よりも「世界が今より良くなっている」という認識があれば、よりポジティブに日常とも向きあえるのではないだろうか。

チンパンジーより世界のことを知らない我々

しきりに人間とチンパンジーを比較するのもこの本の面白い点のひとつである。本書の冒頭で「世界の基本的なことに関する13の質問」を我々に投げかけてくる。たとえばこのような問いだ。

極度の貧困層に生きている人々の割合は20年前と比較してどのように変化したか?

A: ほとんど2倍に増えた
B: ほとんど変化なし
C: ほとんど半分になった

ハンズ氏は、こんな3択形式の問題をインターネットを通じて14カ国、合計12,000人に出題した。平均回答率は16%。仮にチンパンジーがランダムに選択肢を選んで回答した場合の回答率33.3%を下回る計算になるのだ。そんなわけで、我々人類はチンパンジーよりも世界のことを知らないということになる。

この原因が、知識不足ではなく、人間のもつ10の本能であるというのがハンズ氏の結論である。この10の本能の説明と、それに左右されずに事実と向きあえるようになれる考えのフレームワークを、教えてくれているのが本書である。ちなみに”先進国””途上国”の話は、10の本能の内のひとつであるGap Instinct(ギャップ本能)が原因だと話している。

その他にも、Fear instinct (恐怖本能:恐怖を感じるものに対して注意が向く)であったり、Size instinct(サイズ本能:一つの大きな数字のみで判断してしまう)など、興味深い内容が記載されている。さらには著者の実体験など、心が揺さぶられるエピソードもこの本に彩りを与えている。

できるだけ多くの人がファクトベースで世界と向き合う思考を身につければ、世界はより良いものになるんじゃないだろうか。そんな思いにさせてくれる本である。

 

ハンズ氏が有名になったTED TALK。動くバブルチャートで熱烈に説明する姿が印象に残る。1,200万人を超えるPV数。

www.ted.com

ゲイツ氏による本書の紹介動画

www.youtube.com

自然な英文が書ける - 「実践 日本人の英語」

実践 日本人の英語 (岩波新書)

実践 日本人の英語 (岩波新書)

 

久しぶりに読み直したマーク・ピーターセン氏の「実践 日本人の英語」が良かった。

最近は、日本語、英語問わず書くこと重きを置いているので、そんな自分にとっては目から鱗の情報が満載。優しく話しかける文章スタイルなので、読み物としても十分に楽しめるものであった。

タイトルに”実践”とある通り、本書は著者が吟味した「日本人が間違えやすい英語」を避け、自分の考えが正確に伝わる英文を書く力が身につけられるよう構成されている。

具体的には、日本語を母語とする人間が、日本語で考えた内容を英文で表そうとするときに起こる間違いを各章で取り上げ、正しい考え方を指南してくれているという内容である。

 

「の」の話 - 「AのB」

ピーターセン氏は、日本語の「の」を英訳したいときに「of」をひたすら使う日本人が多いと指摘する。彼は本書でこのような例文を挙げている。

「先日の実験において、パナソニック社の携帯電話の性能の12.5%の向上を確認した」

これを日本人が英訳すると以下のようになるのが大半だと言う。

「an improvement of 12.5% of the performance of the cell phone of Panasonic

私も日本人なので気持ちは分からなくもない、でもどこか不自然な感じがする。本書では、この不自然な英文を、どのように組み替えて自然な英文に変換すればいいかを、ひとつひとつ丁寧に説明してくれている。ちなみに自然な英語はこちら。

「a 12.5% improvment in the Panasonic cell phone's performance」

驚いたのが、ひとつも「of」を使っていないこと。こんな具合に他の章も構成されている。

他にも、第2章のマイ問題 - 「私の~」や、第6章のありえない話 - 「もし~なら」、おわりにで伝授してくれている 3つの「小ワザ」など、どれもが新しい発見となった。

 

日本人が間違えやすい英語

マーク・ピーターセン氏は、明治大学政治経済学部教授を現職とするウィスコンシン州生まれの生粋のアメリカ人。コロラド大で英文文学を専攻していたこともあり、一般的なアメリカ人よりも英語のことに詳しいと考えていいだろう。

大学卒業後はワシントン大学大学院で近代日本文学を専攻、その後1980年にフルブライト留学生として来日。それからはずっと日本で生活している(明確な記載はないがおそらくそう)。

つまりは、英語も日本語もエキスパートなわけで、実際に本書も日本語で上梓している。こんな経歴を持つ彼だからこそ「日本人が間違えやすい英語」が分かるというわけだ。そしてそれをまとめたのが「日本人の英語」「続 日本人の英語」である。

それぞれ1988年、1990年に出版されているにも関わらず、今でもアマゾンで上位にランキングされている名著だ。それから25年の時を経て出版されたのが、この「実践 日本人の英語」というわけだ。 

「日本人が間違えやすい英語」により興味がある人は先に挙げた本を読むのもあり。”実践”だけ知りたいという人は、この実践本のみで良いかと。それくらい内容の濃い本になっている。

 

日本語の解像度を高める

英語を学んでいてつくづく思うのが、英語は話し手に具体性を求める言語である一方、日本語は抽象性が高くても伝わる言語であるということだ。たとえば、第2章のマイ問題 - 「私の~」で取り上げられている例を見ても、英語は日本語に比べていちいち細かいことを要求していることが分かる。

逆に言うと、この英語的思考を身につけることができれば、日本語で考える際にも抽象度を薄められることができる。これは思考の解像度を高めるということでもある。抽象的思考から具体的思考へと具体性を高めて、思考をクリアにすることができるのだ。

思考の解像度を上げるとさまざまな場合において良いことが生まれる。特にビジネスの面では、確実にメリットだ。具体的な行動目標が立てられるので、他者との情報共有に誤解が生じにくい

また先日話したように、具体的な行動目標を立てることは、モチベーションupにもつながる。さらには、不特定多数の人々に文章で何かを伝えるときにも有利に働く。具体性が高い表現をすると主体的な文章から客観的な文章に変わるので、読み手に情報が伝わりやすいからだ。

そんなわけで、英語のネイティブスピーカーがどのような思考で英語という言語を構築しているのかを理解したい人、そしてそれを実際に身につけてアウトプットしたい人、さらには英語的思考を身につけて日本語の解像度を高めたい人にはぜひオススメしたい本である。

 

具体的な行動がモチベーションupにつながる話はこちら↓

shimauma-house.hatenablog.com

マーク・ピーターセン氏が吟味した「日本人の間違えやすい英語」集がこちら↓

日本人の英語 (岩波新書)

日本人の英語 (岩波新書)

 
続・日本人の英語 (岩波新書)

続・日本人の英語 (岩波新書)