シマウマ de 考察 @ニューヨーク

ニューヨークに住んでいます。見たもの、感じたこと、考えたことについて書いていきます。

Nowhere to hide

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The Economist Sep 9th 2017のLeader記事。顔認識技術の話なのに、まるで関連なさそうなタイトル。The Economistのタイトルはこんな感じにひねりがあることが多い。まあそれが好きなところでもあるのだが。一方で、彼らはいつも副題で全てを語る。
Facial recognition is not just another technology. It will change society.
顔認識は単なるテクノロジーではなく、社会を変える力がある。どういうことなのかは、本文を読み進めれば分かるという構成になっている。いつ読んでも惚れ惚れする組立だ。
www.economist.com

顔認識の技術って?

「顔認識って指紋認証の顔面版。iPhone X(テン)に新しく採用される技術よな」くらいの認識だったのだが、どうやらそれだけではないらしい。顔認識の技術がどれくらいすごい技術なのかを説明するために、まず顔がどんな役割を持っているのかについて簡単に触れる。人の顔ってのは、自分たちが思っている以上に多くの情報が含まれている。喜怒哀楽はもちろん、緊張しているときや嘘をついているときも顔の表情で分かってしまうことが多い。今まではその判断ができるのは繊細な変化を見分けられる人間しかできなかったけど、それがコンピュータでも可能になってきている。実際、アメリカや中国、ヨーロッパで顔認識を応用したアプリが増えているという。ウェールズでは警察の捜査に使われている。
で、この人間の能力の置き換えとなりえる技術がコンピュータにも備わりつつあり、かつて人間の生活に多大なる変化を与えた、飛行機やインターネットと同じくらいの力を持っている。と、この記事では伝えられている。まだ情報を保管し、蓄え、分析する技術を安く速く活用するまでには至っていないが、それは時間の問題であり必ず訪れる。では、果たしてどのようにして社会を変えるのか?

 

プライバシーと公平性

まず真っ先に挙げられるのがプライバシー問題。顔認識の技術がますます進んでいくと、顔自体がIDとして機能する可能性が高い。似ている顔は存在しても全く同じではない、双子でさえよく見れば違いがある。つまり顔の持つ情報は唯一無二であり、だからこそIDとして機能するのだ。実際ロシアの顔認識を用いたSNSのサービス(VKontakte)では70%の正確性があるらしい。身近で言うと、国外旅行者にはこの技術は大いに役立つだろう。顔がID代わりになれば、パスポートを持ち歩く必要がなくなるからだ。ドライバーライセンスなんかも必要なくなるかもしれない。一方で、たとえば犯罪者たちはたまったもんじゃない。カメラに映ってしまった時点で、正体を突き止められてしまうから。それを証拠にアメリカではFBIがこの技術を重宝しているらしい。中国では国民すべてに政府発行の顔写真つき身分証明書を発行している。この場合、仮に中国政府がその情報と顔認識システムと連結させれば、顔を見ただけで、その人の個人情報が手に取るように分かるのだ。常に顔を隠すわけにはないので、そうなるとプライバシーなんてものはなくなる。スタンフォード大学の実験結果では、認識システムに顔写真を見せただけで、その人がゲイであるかどうかが分かるそうだ。しかもその正答率は人間より高い。(人は61%の正答率、システム は81%)

そうなってくると、この技術は差別を助長する可能性も大いに秘めていることとなる。今でも人種によって採用するかどうかを決める会社もある。(日本では想像しにくいけどね)そういった場面で、顔認証システムを使えば、大量に早くそれが処理できるわけ。だからそういう人たちにとってはめちゃくちゃ有効に使える。採用の場だけではなく、ナイトクラブなんかでもその技術を使って、この人は暴力的なのかどうかを判別するなんてこともできる。他国への入国とかもそうなっちゃうのかも。要するに、今まで見た目や人種に偏見を持っていた人にとっては、かなり楽なツールとして使える。

そういった問題にさっそく取り組んでいるのが欧州。欧州ではすでにいくつかのルールを作っており、来る顔認証時代に備えている。たとえば、顔認証システムを用いるのには当事者の同意が必要にするだとか、企業で使う場合は、顔認証システムのログを監査に見せなければならない仕組みを作る予定だとか。こういったプライバシーや公平性への取り組みは欧州がやはり早い。果たして日本ではこのような時代に対して考えてる人はいるのだろうか?

 

顔認証が広まる土壌

だがしかし、そういったルールを定めたとしても、この世界が顔認証システムが使いやすい土壌になる流れは止まらない。カメラの数は今後もますます増える一方であり、今のAIアルゴリズムを使えば変装さえも見破るという。それはつまり、どこにいても顔を判断されてしまうのだ。どこにいても誰かに自分の個人情報を知られてしまう恐れがあるということ。この流れに異議を唱えるGoogleなどの企業もあるがFacebook、Amason、MicrosoftApple、そして政府も技術採用に乗り気だ。インパクトのある企業が続々こういったサービスを生み出すとなるとやっぱり社会は変わっていくのだろう。

最後にちょっと面白くもあり、怖くもあった箇所にも触れていく。顔認証技術の発達によって、人々の関係性も変わっていくかもしれない。人のつながりって、日本だけじゃなく、どんな国でもある程度の本音と建て前がある。そして建て前が潤滑油となって人々のかかわりをスムーズにしてくれている。しかし顔認証システムを使えば、その建前に隠されている本音も読み取ることができるのだ。だから、あくびを我慢してる表情や、イライラを押さえている表情も相手にばれてしまうかもしれないのだ。まさに、Nowhere to hide。隠れるところがなくなってしまうということだ。