シマウマ de 考察

海外駐在5年目突入のリーマンが書くブログ。最近はThe Economistの記事を中心に書いてます。

住宅産業のゆくえ

建築・設計情報をディープなところまで取り扱う10+1 web siteの特集で、吉村靖孝建築設計事務所の吉村靖孝氏と、株式会社スピーク共同代表「東京R不動産」ディレクターの林厚見氏が、今後の住宅産業あり方についての対談をしている様子が掲載されていた。

10plus1.jp

戦後から現在までの住宅産業の歴史に触れながら、今後の住宅産業がどのように変遷して行くのかをユーザー・顧客のニーズに触れながら話されており、興味深い内容だった。以下はその対談を簡単にまとめつつ、考察している。

 

住宅産業の変遷

これまではプレファブリケーションの時代だった。戦後から1970年代にかけては、国の政策、国民の状況、技術の進歩によって住宅産業が成長・拡大していく。1980年代になると、大手ハウスメーカーの量産型住宅の普及により住宅産業が成熟期に入る。それからも住宅メーカーは量産型物件を排出し続け、大手の「信頼」を頼りにユーザーもそういった物件を購入し続けた。

しかしながら、2000年に入るとこの流れが緩やかに変わっていく。取り巻く環境が変化に引っ張られるかたちで、ユーザーのニーズにも変化が見られるようになってきたからだ。その結果、従来の量産型住宅を扱う大手ハウスメーカーは苦戦するようになってきた。理由は以下に挙げる3つ。

1. 人口減少により住宅購入する総人口が減少した。むしろ、空いている物件がとくに地方で増えている。総務省によると、2013年時点で全国の住宅に占める空き家の割合は13.5%。この数字は今後上がり続けるという。

2. 景気悪化に伴い「価格が高い」量産型住宅を買える人数が減った。本来は量産効果で低価格化が見込めるはずであるが、大企業が供給するため経費が嵩み、さらに本来は工期も短縮できる構想であった工期の短縮も不発に終わったため、安くはない価格の提供せざるを得なくなっている。

3. 従来の量産型住宅に満足しなくなった人が増えた。ユニークな物件を紹介する「東京R不動産」では、サービス開始してから10年で6,000件以上のマッチングを行ってきた事実もある。

これらの要因が重なり、大手メーカーが提供する量産型物件の需要が落ち込んできたのである。そしてこれらの変化に対応できるひとつのソリューションがポストファブリケーションだと吉村氏は語る。

 

ポストファブリケーションとは?

ポストファブリケーションとは吉村氏の造語である。プレファブリケーションの対となる言葉で、プレファブリケーションがoff-site(敷地や現場でないところ)で物をつくるという考え、それに対して、ポストファブリケーションはon-site(敷地のなか、現場や現場の工程)で物をつくるという考え。

ポストファブリケーションで代表的なのはリノベーションやDIY。今の時代、物件のストックはあるし、もちろん物件を購入するよりもリノベーションは安く済む、さらに住み手のユーザーのニーズ沿ったデザインや間取りを変更できるので、結果としてユーザーが満足できるユニークな物件ができる。

また、ハウスシェアもこれに当てはまる。経済的なのはもちろん、もともと1世帯として使用する物件を多世帯で使用するように加工する住み方は、ポストファブリケーションのあり方のひとつなのだ。

 

今後の住宅産業で求められるもの

対談では、住宅産業の今後の展望にも触れている。大きく分けて方向性は2つ。究極のプレファブリケーション達成と多様なポストファブリケーションの提供である。

大手メーカーのプレファブリケーションが失敗に終わりつつあるのは、前述している通り、コストが高いから。逆に言うと、これを下げることができれば、1,000 - 2,000万円の格安モデルで提供できるようになれば、今後も需要はある。そのためには究極のプレファブリケーションが必要になる。それを実現するために、有効打になりえるのが在来工法とデジタルファブリケーションの2つ。特にデジタルファブリケーションは新しい技術であり、今後も発展して行く技術なので、これをいかに現行の生産工程に融合させるかが鍵となる。

先に述べた通り、リノベーションなどすでに一般化しつつありマーケットも広がっている。さらにそれを憧れる層などを加えるとそれ以上に潜在ニーズがあると言われている。その一方で、それを実現するためのソリューションがまだまだ限られているのが現状である。コストをかけずに内装を変えようと思ったときに、建築家やデザイナーに頼むのは敷居が高い、かといってDIYでつくるのは大変、と考え諦めてしまうユーザーはまだまだ多い。かといってユーザーとコミュニケーションがはかれて融通をきかせられる内装業者も少ないし、そもそもリノベーションを歓迎しない物件のオーナーも多い。つまり、小さくない潜在ニーズはあるものの、そのニーズを満たすソリューションはまだまだできていないのだ。ユーザー、建築家・デザイナー、オーナー。この三者間をつなげることがポストファブリケーション実現の肝になる。

それを実現している仕組みが林氏の提供するtoolboxというサービス。具体的なイメージを持ちにくいユーザー、コミュニケーション力や提案力のない職人や業者、商品数が過剰なメーカーやプロダクトをつなぐ仕組みである。また、AIを用いたWebサービスの登場や先にあげているデジタルファブリケーションの技術の発展により、より多くの情報やもものづくりの手段がユーザー側で手に入るようになっていくので、ますますポストファブリケーションの流れが増していくだろう。