シマウマ de 考察

海外駐在5年目突入のリーマンが書くブログ。最近はThe Economistの記事を中心に書いてます。

ネットフリックスのひとり勝ちは続くのか?

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The Economistの6月30日版ではネットフリックス特集記事もしていたので、今回はその話、前回書いた記事の詳細版という位置付け。

本記事の論点は、ネットフリックスは今後も勝ち続けるのか?ということであり、それに対する本誌の結論は、まだどうなるか分からない。なんとも煮え切らない締め方ではあるが、The Economistらしい。この記事では、彼らがこの結論に至った理由を、ポイントを絞って解説する。

www.economist.com

 

ネットフリックスの来歴

まずはネットフリックスの来歴を箇条書きでなぞる。

  • 1997年:カリフォルニアにて創立。当初の事業はDVDレンタルサービス事業。
  • 2006年:パーソナライズ・DVDレコメンド機能のアルゴリズムを開発。一番出来の良いアルゴリズムを開発したデベロッパーに$ 1 million(1億円)の賞金を報酬として用意。←Wikipediaの情報引用
  • 2010年:当時ビデオ配給企業の副社長だったテッド・サランドスがCCO(Chief Content Officer)に就任
  • 2011年:Video Streaming事業に着手。$ 100 million(100億円)をかけて「House of Cards」の放映権を購入
  • 2018年:5月の決算発表で時価総額が$ 170bn(17兆円)となりディズニーを抜き、メディア業界で最大の企業となる。

次に、ネットフリックスがどれだけ成功しているかについて少し触れる。

  • 2018年には年間82本の映画作品を公開する予定。ハリウッドでお馴染みのワーナー・ブラザースは年間23本
  • 現在700を超えるTVプログラムを21ヶ国にまたがって生産中
  • ネットフリックスの購買者は世界で現在1億2,500万世帯。米国内では5,700世帯。米国に限れば、この結果、既存のTVプロバイダーの契約が激減している。
  • 世界のDownstream bandwidthの約5分の1をネットフリックスが占拠。要するに、ものすごく多い人数がネットフリックスのコンテンツを視聴しているということ。この数には中国人が含まれていない(中国ではネットフリックスが規制されている)ので、なおのこと驚きである。


ネットフリックスの成功要因

これほどまでに成功しているネットフリックス。ではその成功の要因は何なんだろうか。大きく分けて3つあると考える。

  1. 莫大なコンテンツ投資
    2018年の1年間で$ 12bn(1兆2,000万円)をコンテンツ投資に行うという。さらには人材の確保にも余念がない。最近ではオバマ米大統領とその夫人ミシェル氏とも契約し、新たな番組を作成中。他にも米国では超著名なプロデューサーたち("Glee"のRyan Murphyや"Grey's Anatomy"のShonda Rhimesなど)と続々契約している。

  2. グローバルマーケティング
    米国のみならず世界的に展開し成功している。実際、ネットフリックスの購読者の半分以上は米国外にいる。成功の秘訣は、各国にてローカルな番組を制作していること。メキシコの「Marcos」、ドイツの「Dark」やブラジルの「3%」など数えれば数多にある。それらローカル作品が文字字幕とともに世界に発信し、さらに人気を加速させているという現象も起こっている。

  3. 超強力なアルゴリズム
    適切な対象に投資し、適切な視聴者に、ネットフリックスのプラットフォームを使ってダイレクトに広告する。これを可能にしているのは、ネットフリックスが超強力なアルゴリズムを開発し続けているからだ。データに基づいた確固たる自信があるから、他社が考えもしなかったような大胆な行動が踏める。ここでの強みはデータが集まれば集まるほど強力になるので、ネットフリックスの牙城はそうそう崩れないだろう。
    DVDレンタル屋時代から、アルゴリズムによるレコメンドシステムで成功した体験も、後押ししているのだろう。

 

ネットフリックスが抱える4つのリスク

これほどまでに好調ななネットフリックスでも将来は安泰ではない。と本誌は主張する。これぞ”盛者必衰”の理である。

  • 競合の存在
    AT&T(米国最大手の電話会社、インターネット接続等のサービスも行う)が$109bn(10兆円)でタイム・ワーナー社を2018年6月に買収。コンテンツ配信事業にも力を入れる形だ。
    さらにはケーブル・メディア最大手のコムキャスト社も、21st Century Foxの買収を画策しているという。その買収額は$80bn(8兆円)にのぼるという。
    もちろん、Amazon PrimeやHuluなど他のストリーミングサービスも虎視眈々とネットフリックスの牙城を崩そうとしている。

  • ファイナンシャルの問題
    ネットフリックスは$8.5bn(8,500億円)の負債を抱えている。もちろん、これは余剰利益を出さずにコンテンツに投資する、戦略的負債であり1億世帯を超える購買者を抱えるネットフリックスにとっては、大きな痛みではない。今の所は。しかし、ひとたび会員数が減ることが起これば、この少なくない負債が、企業の首を絞めかねない。

  • スキャンダル
    100億円かけて権利を勝ち取り、映像ストリーミング事業の創成期に成長するドライバーとなったHouse of Cardsであるが、主演のケビン・スペイシーが2017年に性的暴行の疑いをかけられるスキャンダルに見回れる。このときのネットフリックスの動きは機敏で、即座にケビン氏との関係を断ち、残っていた最終シリーズもこの主演を使用しないと決定した。このためネットフリックスが本件についてバッシングを受けることはなかったが、他の俳優がこのようなスキャンダルを起こさないとは限らないので、今後もリスク要因として大きく残る。

  • 既存TV事業との軋轢
    たとえネットフリックスの事業が上記リスクを乗り越えたとしても、今度は既存事業との覇権争いになる。この場合は、往々にしてネットフリックスのような新規事業は不利なる。なぜなら既存事業は政府との付き合いが深いから。仮にネットフリックスが各国のエンターテイメント事業を独占したとすると、各国で規制がかけられる見込みが高くなる。

 

長期的に見て一番大きなリスクは、既存事業との争いになる。実際、日本ではAirbnbUberなどは厳しい規制をかけられている。それが”タイタン”と呼ばれる超巨大企業の悩みの種となる。事実、FAANGFacebookAmazonAppleNetflixGoogleのどの企業もまだ解を見つけられていない。

というのが本記事の最後の締め。いかにもThe Economistらしい締め方である。

 

前回のネットフリックス記事はこちら↓

shimauma-house.hatenablog.com