デザインの統合する力で都市の環境問題を解決 アラヴェナ氏の3つ目の事例紹介
前回の投稿から引き続き、アラヴェナ氏の話第3弾。
チリの建築家、アレハンドロ・アラヴェナ氏はTED Talksで地球規模の問題に対する3つの取り組みについて話していました。
今回のテーマはTsunami(自然災害)について。
2010年にマグニチュード8.8の地震・津波被害を受けたチリ南部のConstitucion(コンスティトゥシオン)という地域がある。
その地域の復興してほしいとの依頼を受けたのがアラヴェナ氏。しかし彼に与えられた期間はわずか100日だった。その期間中に、公共ビルやスペース、道路網、交通、住宅、そして都市の保護(つまり将来の津波からの保護)のすべてを考える必要がありました。
まず導きだした一つ目の案は、震源地には何も建てないという案。しかし、チリという国では、「何もない土地は市民によって不法に占拠されるリスクが高い」との判断からこの案は却下となりました。
次に彼らが思いついた案は、Tsunamiを防ぐために、大きな壁、つまり重厚なインフラを防波堤にするという案でした。この案は、建設に携わる企業や、政治絡みでも好ましかったのですが、最終的には自然の力に抗うことはおそらく不可能だろうという結論に至りました。日本で起きた東北大震災の被害の大きさを見てもそれは明らかでした。
現地の人々(コミュニティ)を巻き込むデザイン
そこでアラヴェナ氏は改めて問題を明確にするために、その土地の人々を巻き込むことにしました。彼が常々意義があると信じ続けた「現地の人々を解決(デザイン)のプロセスに巻き込む」手法を取り入れたのです。彼らは、実際にコンスティトゥシオンに出向いて集会を開きました。
そこでようやく問題の本質を発見することができたと言いま。
問題の本質、つまり今回の場合であると「市民が都市づくりに本当に求めること」とは、何十年後かにやってくるかもしれないTsunami対策をしてほしいのではなかったのです(もちろん大事であることは承知している)。現地の人々にとってより大きな問題とは、毎年直面する洪水問題だったのです。さらにはその洪水が原因となって生み出される公共スペースの最悪な状況であったり、都市のアイデンティティのひとつである川へのアクセス状況もそれぞれ大きな問題であることが分かったのです。
統合する力で資金(乏しいリソース)の確保
それらの本質的問題を解決するためにアラヴェナ氏は「都市と海の間に森を作る」という3つ目の案を出します。このプランが実現すれば、たとえ大量の水が流れてきても、流れ込んだ水を薄く広く分散させることが実現できます。その結果、洪水を防ぐことができるのです。そのことは、洪水が原因となって生み出された最悪な公共スペースの改善される効果もあります。そして公共スペースを生むことで、川への民主的なアクセスも可能となりました。
この参加型デザインの結論は、社会的にはもちろん、政治的にも支持されることとなります。しかし、実現の過程でコストの問題が立ちはだかります。このプランを実現するためには4,800万ドルという費用がかかるのです。このコスト問題を解決するために、彼らは都市の公共投資システムを調査しました。その結果、3つの異なった省庁が、まったく同じ場所に対して別々のプロジェクトを計画していることが分かりました。それもお互いのプロジェクトの存在は知らずに。各省庁のプロジェクト費用を合算すると5,200万ドルとなります。アラヴェナ氏は、それぞれの省庁プロジェクトを統合することによって、4,800万ドルの資金を捻出し、「都市と海の間に森を作る」プロジェクトを進めることに成功しました。
デザインの力=統合する力で都市の環境問題を解決
このプロジェクトを通じてアラヴェナ氏が伝えたいことはとてもシンプルです。
「デザインの力=統合する力は素晴らしいものである」
彼は今回、コミュニティを参加させるプロセスを取り入れるデザインを行うことで、都市そして市民の抱えている本質的な問題(Tsunamiではなく洪水、公共スペース、川へのアクセス)を発見し、その問題を一挙に解決する方法を考えだした。
そのプランを実行するために阻害となる要因(コストの問題)も、既存リソースを最大限有効活用するデザイン(別々の省庁プロジェクトを統合した)を行うことで、排除することに成功したのでした。
やはり、既存のリソースの活用するという観点は、前回と前々回とも同じでしたね。
次回は、今回TED Talkで話していた3つのプロジェクトを包括するとともにアラヴェナ氏の建築哲学について、振り返りたいと思います。