シマウマ de 考察

海外駐在5年目突入のリーマンが書くブログ。最近はThe Economistの記事を中心に書いてます。

フックと本質的な価値

問題解決型デザインではないデザイン。スペキュラティブ・デザインの記事を前回書きました。

その記事では、ロンドンを拠点として活動している「Superflux」が紹介されている記事も紹介しています。

Superfluxが行った一つの活動に、自宅のWi-Fiを無料に解放するプロジェクト「Yellow Chair Stories」がありました。

2005年に行われたその活動は、当時では考えられなかったWi-Fiの無料解放を自宅の前で行うということ。10年前のネット環境は、ロンドンでさえも今ほど整備されていたわけではありません。自宅のWi-Fi回線を他者と共有することはその回線自体が遅くことになるので、むしろ敬遠するのが当たり前でした。

そんな時代に行われたのがYellow Chair Storiesプロジェクト。

きっかけは「無料でWi-Fiを使える環境があってもいいんじゃないの?」とういうスペキュラティブ型デザイン思考から行われたものです。

プロジェクトの内容は、家の前に黄色のビビットカラーに塗られた椅子の上に、「Wi-Fi無料解放中」と書かれた看板を置くという至極シンプルなもの。

そのうち、興味本位に椅子に座ってパソコンを利用する人が少しずつ現れるようになり、近隣同士の対話も生まれるようになったと言います。

 

人が継続的に集まる場所とは?

さて、なぜわざわざ改めて今回の投稿をしているかというと、このプロジェクトに携わったアナブ・ジェイン氏の言葉にスペキュラティブ・デザインという考えを知る以外にも学ぶところがあると感じたからです。

「ただ場所を提供するのではなく、人々が求めているものは何かを考え、そのツールを提供することからコミュニティは生まれるものです。このプロジェクトの場合、黄色い椅子が”フック”になってはいるのですが、当時から、無料Wi-Fiの需要はそれなりにあったということですね」

この言葉をもう少し自分の頭に入るように置き換えると以下のようになりました。

・人々は単なる場所に魅力を感じるのではなく、その場所を通じて得られる何かしらの価値に魅力を感じる

・その価値を感じてもらうための工夫が必要。ジェイン氏は”フック”と呼んでいる。悪い言い方をすれば、客寄せパンダ。

・人々が継続的に集まる場所でコミュニティが形成される。対話が生まれる。

よくよく考えてみると、人が集まるところって、そういった工夫がされていることに気がつきます。

たとえば、家の近くにある飲食店の1つは「餃子0円」という”フック”を使っていたます。

観光地の話をすると、観光名所が”フック”になっている。東京で言えば、浅草の浅草寺東京スカイツリーなどでしょうか。

しかしながら、それらは単なる”フック”であり、そのフックにひっかかって集まっただけであり、決してそれらの場所に対して魅力を感じて集まったわけではないのです。

「餃子0円」の飲食店であれば、そのお店の他の料理や、雰囲気、サービスが本質的に顧客が感じる価値が大事になるでしょう。したがって、それらの本質的な欲求を満たさなければ、継続的にやってくる人は少ないでしょう。

東京スカイツリー」の良さを全面的にうち出したとしても、その街自体の雰囲気や、住んでいる人々の雰囲気が観光客のニーズにマッチしていなければ、再度訪問してくる観光客は少ないでしょう。

”フック”のみに固執したり、”フック”を増やす活動をするのではなく、”フック”の先に感じる本質的な価値が何であるかを見極めて、提供することが必要なのではないでしょうか。

そんなことをジェイン氏の言葉から感じ取ることができました。