シマウマ de 考察

NY駐在4年目サラリーマンが洋書のレビューを中心に書いていきます。最近は生産性を高めることにもハマっていて、脳の働きや睡眠についても研究中。他にもニューヨークで感じたことなどもたまに書いてます。

ファクトフルネス:Hans Roslingが伝えたかったこと

 

ファクトベースで世界と向き合おう。

スウェーデンの医師であり公衆衛生学者でもあるハンズ・ロズリング博士が最後に残してくれたのが、この考えである。(ハンズ氏は2017年2月に他界。本書はハンズ氏とハンズ氏の息子オラ氏とその妻アナ氏による共著)

世の中の人々は、世界に対して間違った理解をしており、総じて世界は悪くなっていると考えてしまっている、とハンズ氏は言う。実際には良くなっているにも関わらずである。この本では、なぜ人々は世界が悪くなっていると考えてしまうのか?実際には世界がどんな風に良くなっているのか?ということを伝えてくれている。

ビル・ゲイツ氏が2018年の夏に勧める5冊の本のうちの1冊に選んだことで有名。その勧め度合が半端なく、2018年にアメリカの大学を卒業する生徒全員に電子ブックを無料配信するほどだ。

もちろんゲイツ氏自身も、この本から学んだことはたくさんあると言っており、特に衝撃だったのが、”先進国”と”途上国”に変わる新しいフレームワークをハンズ氏が提唱していることだそうだ。彼のブログであるgates noteにそう綴っている。

”先進国”と”途上国”をアップデート

確かに50年前ならば先進国と途上国という概念は正しかったのかもしれない。しかしこの考えはすっかり古いものになってしまったので、考えのアップデートが必要である、とハンズ氏は言う。実際、中国とコンゴ共和国を一括りにして”途上国”と呼んでしまうのは雑すぎる、ということは誰もが感じるだろう。

ではどのように見ていけばいいのか?ハンズ氏は4つの収入レベルに応じてグループを区別するべき、と述べている。

Level 1: $ 2以下で1日を生活する人々。世界銀行が定義づける貧困層だ。このレベルは世界に約10億人いる。裸足で生活し、調理は焚き火で行う。1日の大半は水を確保するために歩いており、夜は床で寝る。

Level 2: 世界に30億人いると言われているのがこのレベル。$2 - $8 で生活をしている。靴を履いており、中には自転車に乗っている人もいる。このおかげで1日かけて水を汲みに行かなくて済む。料理にはガスストーブを用い、マットレスで寝る。このレベルからほとんどの子供が小学校に行けるようになる。

Level 3: 20億人が$8 - $32で生活している。このレベルになると、家には水道も冷蔵庫もある。中にはオートバイを保有している家庭もあり、このおかげで遠方にある賃金の高い職にも就くことができる。多くの子供は高校まで行ける。

Level 4: 10億人いるのがこのレベル。$ 32 以上で1日を過ごす。日本人のほとんどがこのレベルに入る。いわゆる”先進国”の普通の暮らしだ。多くの子供は高校まで卒業するし、頑張れば車も買えるし、旅行に出かけることもできる。

なぜ事実を知ることが大事なのか?

このフレームワークを用いれば、より事実に近い見方ができる。ではなぜ事実を知っておく必要があるのだろうか?このことから我々は何を得られるのか?

国連機関や、ユニセフ等で働く人々には直接恩恵をもたらすだろう。問題解決をするために最初にやらなければならないことは現状認識である。現状が理解できて初めて、問題がどこにあるのか、何が原因なのかを突き止めることができる。その結果、解決に向けてリソースをつぎ込むことができる。

企業にとってのメリットも考えやすい。このフレームワークIMF国際通貨基金)が見通す今後のGDP成長率とを一緒に考えてみると、たとえば20年後にはどんな国がLevel 4を占めるようになるのかが分かる。実はその大多数、およそ73%が今"発展途上国"と言われている国々。これを把握しておくと、どんなマーケティングをしていくかも考えやすくなるだろう。

個人においてもいくつか思い浮かべることができる。たとえば投資先の国を考える上での正しい情報源になるだろうし、レジャーで旅行に行く選択肢も増えるかもしれない。何よりも「世界が今より良くなっている」という認識があれば、よりポジティブに日常とも向きあえるのではないだろうか。

チンパンジーより世界のことを知らない我々

しきりに人間とチンパンジーを比較するのもこの本の面白い点のひとつである。本書の冒頭で「世界の基本的なことに関する13の質問」を我々に投げかけてくる。たとえばこのような問いだ。

極度の貧困層に生きている人々の割合は20年前と比較してどのように変化したか?

A: ほとんど2倍に増えた
B: ほとんど変化なし
C: ほとんど半分になった

ハンズ氏は、こんな3択形式の問題をインターネットを通じて14カ国、合計12,000人に出題した。平均回答率は16%。仮にチンパンジーがランダムに選択肢を選んで回答した場合の回答率33.3%を下回る計算になるのだ。そんなわけで、我々人類はチンパンジーよりも世界のことを知らないということになる。

この原因が、知識不足ではなく、人間のもつ10の本能であるというのがハンズ氏の結論である。この10の本能の説明と、それに左右されずに事実と向きあえるようになれる考えのフレームワークを、教えてくれているのが本書である。ちなみに”先進国””途上国”の話は、10の本能の内のひとつであるGap Instinct(ギャップ本能)が原因だと話している。

その他にも、Fear instinct (恐怖本能:恐怖を感じるものに対して注意が向く)であったり、Size instinct(サイズ本能:一つの大きな数字のみで判断してしまう)など、興味深い内容が記載されている。さらには著者の実体験など、心が揺さぶられるエピソードもこの本に彩りを与えている。

できるだけ多くの人がファクトベースで世界と向き合う思考を身につければ、世界はより良いものになるんじゃないだろうか。そんな思いにさせてくれる本である。

 

ハンズ氏が有名になったTED TALK。動くバブルチャートで熱烈に説明する姿が印象に残る。1,200万人を超えるPV数。

www.ted.com

ゲイツ氏による本書の紹介動画

www.youtube.com